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賃金の定義
 労働基準法第11条において、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として、使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定されています。
 現実に支払われている賃金の態様は千差万別なので、何が賃金であるかを決定することは非常に困難な場合が多いため、@使用者が労働者に支払うもの、A労働の対償として支払われるもの、B名称がどのようなものであるかに関係なく支払われるものであること、の3つの要件に該当するかどうかで判断します。
 労働者に対して支払われる金銭、物等が労働基準法上の賃金に該当するか否かの判断基準の第1は、当該金銭、物等が使用者から支払われるものであるか否かということになります。使用者、労働者とは法9条、10条に示されており、両者の使用従属関係のもとで行われる労働の対償として使用者が労働者に支払うものが賃金とされます。したがって、たとえば旅館、飲食店の従業員等が客より受けるチップは賃金ではありません(昭23.2.3基発164号)。
 労働の対償とは、使用者が労働者に支払うもののうち、労働者がいわゆる使用従属の関係のもとで行う労働に対してその報酬として支払うものと解されています。労働者の個人的な吉凶禍福に際して使用者が任意的、恩恵的に支払う慶弔見舞金などの金銭等は、「労働の対償」としての賃金とはみられません。そのため福利厚生(福利厚生という概念は労働基準法上の明文の概念ではないのですが、賃金の概念を明確にするためにこのような概念が便宜的に用いられています)であるものも賃金ではありません。例えば生命保険会社等と任意に保険契約をした労働者に一定額の補助をする生命保険料補助金は、労働者の福利厚生のために使用者が負担するもののため、賃金とは認められません(昭27.8.23基収3604号)。
 しかし、発生的には任意的、恩恵的なものであっても、就業規則等によってあらかじめその支給条件が明確になっているものは、これによって使用者はその支給義務を負い労働者も権利としてその支払を請求できるので、労働の対償たる賃金と解されます(昭22.9.13基発17号)。退職金もこれと同様で、あらかじめ退職金について定めがなされている場合には、賃金と解されています(電電公社小倉電話局事件 最高裁判決昭43.3.12)。なお労働者の必然的な支出を補うものは福利厚生ではなく賃金と解されます。例えば所得税、社会保険料の労働者負担分等を使用者が労働者に代わって支出する場合の税金補助金、保険料補助金等の労働者の必然的な支出を補うものは福利厚生ではなく賃金となります。
 賃金を通貨以外のもので支払う(実物給与)ためには、法令又は労働協約に別段の定めがあることが要件となります。現在該当する法令はありませんので、労働協約に定めがある場合のみ実物給与が認められます。なお、労働協約は使用者又はその団体と労働組合との間の協定ですので、実物給与は労働組合の存在が前提となります。労働組合のない企業や労働組合員以外の従業員には認められません。労働協約を締結することにより、通勤定期券の支給、住宅の供与等ができるようになります。
 以下に賃金とみなされる例、みなされない例をいくつか挙げておきます。

〈賃金とみなされる例〉
・使用者が任意的恩恵的に支払う退職金や災害見舞金等のうち、労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっているもの。(支給条件が明確になっていない場合は賃金とみなされません。) (昭22.9.13基発17号)
・住宅の貸与について、住宅の貸与を受けない者に対して定額の均等給与が支給されている場合は賃金とみなされます。 (昭23.2.20基発297号,昭33.2.13基発90号)
・通勤手当又はその現物支給としての通勤定期券。  (昭22.9.13基発17号)

〈賃金とはみなされない例〉
・使用者が任意的恩恵的に支払う退職金や災害見舞金等(支給条件が明確になっている場合は賃金とみなされます。) (昭22.9.13基発17号)
・通常実費弁償としてとらえられている旅費、労働者持ちの器具の損料として支給する器具手当、使用者の支給する工員の作業衣、交通従業員の制服等。 (昭23.2.20基発297号)
・法定の額を超える休業補償費について、休業補償は法律で100分の60と規定されていますが、これは最低の基準と考えられるため、事業場で休業補償として平均賃金の100分の60を上回る制度を設けている場合はその全額が休業補償とみられます。 (昭25.12.27基収3432号)
・住宅の貸与について、原則として、福利厚生施設と解されます。 (昭23.2.20基発297号,昭33.2.13基発90号)

 ただし、平均賃金の算定には臨時に支払われた賃金及び3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は算入しません(労基法12条)。また、割増賃金の算定には家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は算入しません(労基法37条、規則21条)。
 なお、社会保険(健康保険・厚生年金)においては賃金と同じような意味で報酬という言葉を使って保険料の算定をしますが、報酬は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他どんな名称であっても、被保険者が労務の対償として受けるものすべてを含みます。ただし、大入り袋や見舞金のような臨時に受けるものや、年3回以下の賞与は含まれません。
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