1.賃金の性格
賃金制度は、社員個々人の賃金の決定にあたって何の「要素」を基準にするかということと、どの要素にどれだけの「ウエイト」を置くか、を示したものです。従来は、学歴・性別・勤続・年齢など属人的要素が大半を占めていましたが、最近では少子高齢化等の環境変化の影響もあり、能力(職務遂行能力、知識、技能度、習熟度など)や仕事(難易度・つらさや責任度合といった職務の価値)を基準とするように変化して来ています。
そういった意味では、賃金制度は賃金の個別配分の仕組みであり、個人間賃金格差を制度化したものといえます。そこで、個人間の賃金格差が公平なものとして受け入れられるだけの賃金配分の基準の妥当性が求められます。
賃金配分の公正さの条件として、@労働対価の原則、A生活保障の原則、の2つがあります。
労働対価の原則とは、同一労働同一賃金のことで、賃金は労働の質と量に見合うものでなければなりません。逆に、労働の質と量が同じであれば、賃金は性別・年齢・学歴などに関係なく同一であるというものです。
生活保障の原則とは、賃金が生計費をまかなうに充分なものでなければならないというものです。「充分」とは、その賃金で経済的あるいは文化的にゆとりある生活が送れる水準であることをいいますが、生計費に応じて賃金に格差をつけるというよりは、最低賃金であっても一応の生計費を満たすだけの水準を保っているという意味です。逆にいうと、賃金水準が生計費を充分まかなうだけの高さであれば、年齢給や家族手当といった賃金項目のウエイトは少なくて、あるいは全くなくてもいいということです。
最低生計費の算出には人事院の統計データを利用します。
2.月例賃金の構成
仕事や能力など、その貢献に見合った賃金の個別配分が行われているか、世間相場的に充分な賃金水準になっているか、健康で文化的な生活を営むことができる賃金水準かなどは基本給部分で実現するのが原則ですが、金額や対象が変化しやすいため基本給に組み込むと不安定になったり、基本給の仕組みだけではまんべんなく対応できない場合に、職務関連手当や生活関連手当などを設けます。これらは、「○○給」とか「○○手当」といった名称にとらわれず、実質で判断する必要があります。
職務関連手当は、基本給だけでは仕事の量と質の対価としてまんべんなく支払うことができないときに設けます。職務関連手当には、特殊作業手当(危険作業手当や高所作業手当など)、技能手当や外勤手当、営業手当、役付手当(管理職手当)などがあります。管理職という職務に対しては基本給だけでも対応できますが、部下のいないスタッフ的な管理職との負担の調整や、時間外手当や休日出勤手当がつかなくなることとのバランスを取るために、手当として払う企業が多数です。また、役職定年制を取る場合は、手当化してあれば、基本給自体を調整する必要がなく、使い勝手がいいといえます。
生活関連手当は、基本給の持つ生活費カバー的側面の延長線上にあるもので、家族手当や住宅手当、別居(単身赴任)手当や地域手当(寒冷地手当や都市手当など)があります。
賃金項目の一般的なパターンは以下の表の通りです。

◆一般的に、月々の賃金の基本的な部分(基本賃金)を基本給と呼び、全労働者を対象として支給される。従って、本来、基本給は基本賃金を表すものだが、企業によっては基本給が基本賃金の一部であったり、基本賃金以外のものを含めたりしている。
たとえば、基本給のほかに職務給や職能給を設ける場合。名称は職務手当であったりするが、本来は基本賃金に該当する。また、資格手当や等級手当も資格や等級ごとに金額は異なっていても、全員を対象として支給していれば、基本賃金に該当する。第2基本給や加給も同様。住宅手当や食事手当も全員一律なら、これもまた同様。
◆資格手当や等級手当は、職能資格制度はあるが基本給が職能給ベースに改定されていない場合や、改定されていてもアクセントをつけるためにあえて設定する場合がある。結果的に昇格昇給と同じ機能を有する。
3.基本給決定要素の特色
基本給決定要素としては、一般的に@能力(職務遂行能力、知識、技能度、習熟度など)、A仕事(難易度・つらさや責任度合といった職務の価値)、そしてB生計費(年齢など)の3つが挙げられます。これらを明確に区分し、かつウエイト配分して基本給体系を構成します。@は能力にリンクしたもので「職能給」として、Aは職務価値にリンクしたもので「職務給」として、Bは年齢や勤続年数など属人的要素に基づくもので「年齢給」「勤続給」あるいは「属人給」などとして反映されます。
「職務給」は職務そのものの難しさ、責任の重さなどを分析して(職務分析)、職務価値を調査し、職務評価によって各職務の価値をレベル分けし、それと賃金とを結びつけるものです。このため、職務等級が処遇基準となってきます。職務は個人の属性と切り離すことができるので「仕事給」と呼ばれます。「年齢給」と併用されたり、範囲「職務給」として職能給的色彩を加味し、範囲の中で習熟昇給を行う場合もあります。職務範囲が不明確であったり、職務評価を行うほど職務内容が明確に標準化できなかったり、職務が流動的であったり、能力育成型の配置を前提とした事務系職種などでは職務分析やメンテナンスが難しいといった面もあります。
「職能給」は能力開発をその基本に置き、能力主義的人事管理を賃金に適用しようとするもので、属人的要素の「能力」に焦点を当てて賃金を支払うものです。ここで「能力」とは、それぞれの仕事を遂行するのに必要な能力を指しており、いわゆる職務遂行能力が賃金決定の基準として用いられ、能力レベル即ち能力の質を部門と等級にランク分けしてマトリクス化した資格制度(職能資格制度)と賃金が連動します。能力という属人的要素で賃金が払われるため、配置転換が行いやすい反面、能力の把握や評価には難しいものがあります。「年齢給」と併用したり「職能給」の定期昇給的運用をすることで、いわゆる年功的な賃金の色合いを持つものになります。また、年功賃金から能力主義に移行する際の理論化に利用される場合は、自ずと年功的な運用を残したものになります。能力開発の幅が狭いタクシー運転手や比較的単純な作業に従事する場合などは初心者の1等級と一人前の2等級で済むので、「職能給」は適用しにくいといえます。
「職務給」と「職能給」の特徴を対比すると次の通りです。
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職務給
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職能給
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基準
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仕事そのもの(労働)の価値
職務等級制度
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その仕事に必要な能力(労働力)、職務遂行能力の高さ、広がり
職能資格制度
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昇格
任用
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上位レベルの仕事、下位レベルの仕事への変更は会社が任命
該当者の能力レベルは要件の一つ
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能力の高まり、広がりが基準を満たせば昇格降格は原則として行わない
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長所
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仕事の価値を直接賃金に反映できる
属人的要素を排除した公平な賃金
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社員の能力開発のインセンティブになる
社員の異動・配置の柔軟性を確保できる
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短所
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社員の異動・配置が固定的になる
職務評価がむずかしい
社員のモチベーション維持が時に問題となる
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年功的運用になりやすい
高資格者=高業績者でないので人件費がかさむ可能性がある
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「職種給」は「職務給」同様、仕事に準拠した賃金ですが、仕事(職務)のくくり方が大きく、職種や職群、職掌などがその枠組みとなります。「職務給」のように職務分析と職務評価に基づき賃金を決定するのでなく、職務の難易度を背景としつつその職種に対する労働需給を反映して賃金が決定されます。職種は職務と同様に個人の属性と切り離すことができるので、「仕事給」と呼ばれます。
「総合決定給」はいわゆる年功賃金といい、昇給管理にポイントがあります。人事考課も昇給部分に反映されることになりますが、その際の評価は能力だけとは限っておらず、明確な基準なしに賃金が決定されるため、「総合決定給」と呼ばれたりしています。「総合決定給」が受け入れられてきた背景には、@各世帯の生活費サイクルと年齢別賃金カーブに大きな違和感がなかった、A経験とOJTによって伸びていく能力カーブと賃金カーブのパターンが大まかに似ている、B豊富な若年労働力を背景に比較的低めの初任給が設定しやすかった、C毎年のベースアップが大幅で年々の昇給額にはそれほどの注意が払われなかった、などの理由が考えられます。 これらの基本給決定要素の組み立て方は企業により様々ですが、大きく分けると@単一型体系、A併存型体系、の2種類に分かれます。単一型体系とは、基本給項目が1つのものまたは2つ以上あるもののうち、それぞれの項目が同種の型(仕事給、属人給、総合決定給)で構成されるものをいいます。併存型体系とは、基本給項目が2つ以上あるもののうち、それぞれの項目が異なった型(仕事給・属人給、仕事給・総合決定給、属人給・総合決定給)で構成されるものをいいます。
Aの併存型体系のうち代表的なものとして次の3つがありますが、いずれも「年齢給」を通して生計費という生活給的項目を併用しています。生活保障賃金としての「年齢給」を基本給体系に取り入れることにより、労働対価賃金としての「職務給」や「職能給」の機能を確実なものにできます。基本給に「年齢給」を取り入れないなら、生活手当を大きな金額で設定するか、昇給(ライン)に生計費増額分を補充するような配慮が必要となります。
統計データによると、賃金制度の核となる基本給体系の方向性は職能給化の進展が著しく、今後も「年功給(年齢給)から仕事給(職能給中心)へ」進むことが予想されます。
T)職務給と職能給の併用方式
3つの基本給決定要素別に基本給の項目を設ける方式。「年齢給」のところは「本給」と呼ばれたりする。「職能給」のところは基本給に組み込まず「資格手当」の形をとることがある。
U)職務給方式
大企業のブルーカラーなどでみられる方式。「職務給」を基本給の一部に組み込み、本給の部分は生計費と職務遂行能力を考慮した形を取る。

V)職能給方式
現在の日本で比較的よくみられる方式。生計費カーブに見合うものとして「年齢給」を設定し、職務を考慮しつつ(各人が資格等級に見合った仕事を7〜8割は担当しているという前提で)、残りを「職能給」とするもの。これも定期昇給制度を根幹とする。
「職能給」は一般的に資格制度(職能資格制度)と連動しており、昇格昇給と毎年の定期昇給(毎年の能力の伸びを反映)の2つからなる。

W)総合決定給方式
3つの基本給決定要素がある程度考慮されたうえで総合的に決定される方式。年功給方式とも呼ばれる。戦後長い間日本の基本給体系の主流を占めて来たもので、制度上は基本給決定要素が表に出ている部分は少なく、明確な基準がない状態で決定されるため、「総合決定給」と呼ばれるゆえんである。
定期昇給制度を根幹とし、昇給管理中心で運用されており、右肩上がりの賃金カーブを描き、かつ年齢間格差の大きなものとなる。